早川勝メール【745号】何もかも憂鬱な夜に 生と死、そして希望と真摯に向き合った長編小説

2015-03-29

 

大塚家具の“お家騒動”が話題だ。

前代未聞の父娘バトル。

経営権をめぐり、
創業者の父親とその長女が骨肉の争いを繰り広げている。

株主総会の結果は、
父の退任を求めていた娘・久美子社長の「会社提案」が
過半数の賛成を得て可決し、
娘の退任を求めていた父・勝久会長の「株主提案」は否決された。

世の中には様々な父娘関係があるものだとつくづく思う。

そこまでに至るには、当人たちしかわからない、
父娘の「思い」があるに違いない。

株主でも、会社でもない、
父としての、娘としての「思い」が…。

私にも3人の娘がいるが、
何があっても骨肉の争いをする気などさらさらない。

欲しいものはすべてあげてしまっていいし、
好きなことはなんでもやればいいと思う。

たとえ、娘の身代わりとなって
死んだってかまわない。

 

大甘な父親、日本代表である。

 

 

と、本日の前置きはこれくらいにして、
メインコンテンツに入ります。

今週も新たに618冊目の「お薦め書籍」から
ためになる一節を抜粋し、ご紹介いたします。

人気お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さんが、
純文学小説「火花」を書き下ろし、
出版界の風雲児として話題を集めていますね。

堂々のベストセラーランキング第1位を続けています。

発売前からすでに35万部もの大増刷だというのですから、
もの凄い人気です。

その又吉直樹さんが、
2年前に出版された芥川賞作家の文庫本の巻末に、
「解説」(あとがき)を書いていたのを思い出し、
ここで抜粋文をご紹介することにしました。

さすが「人気作家」と思わせる、
又吉流の奥深い解説となっています。

本日のテーマは、
【命】
です。

お役に立ちましたら幸いです。
それでは、どうぞ!
↓↓↓↓↓↓↓
私の本よりためになる「お薦め書籍」シリーズ No.618
「何もかも憂鬱な夜に」
生と死、そして希望と真摯に向き合った長編小説
中村文則 著
集英社文庫

 

解 説
又 吉 直 樹

門外漢である自分が優れた作品の巻末に文章を寄せることなど
恥じ知らずの極みである。

せめて上手く書いたように取り繕うしかない
と思ってみても凡人の限界など知れている。

不器用な装飾が却って公になり失態を晒すだけだ。

だから、今回は覚悟を決め、恐れず正直に書きたいと思う。

(中略)

『何もかも憂鬱な夜に』を僕は何度も何度も繰り返し読んだ。

決して軽く読み進められる代物ではない。

そんな深刻な物語のなかで、
主人公が育った養護学校の恩師、
そして過去の天才達が残した鑑賞可能な芸術、
これらが錯乱した世界に強い光をあてている。

影があれば必ずどこかに光はある。

この小説は闇からも光からも
「命」という根源的なテーマに繋がっていて、
その陰影によって
「命」が立体的に浮かび上がってくる。

命は尊いと誰もが理屈では理解しているのだが
語ると忽ち陳腐に聞こえてくることがある。

この小説がそこに陥らないのは
闇と光の両面から対象に肉薄しているからだろう。

主人公が児童施設で施設長の恩師から言われた言葉がある。

「これは、凄まじい奇跡だ。アメーバとお前を繋ぐ何億年の線、
その間には、無数の生き物と人間がいる。
どこかでその線が途切れていたら、何かでその連続が切れていたら、
今のお前はいない。いいか、よく聞け」

そう言うと、小さく息を吸った。
「現在というのは、どんな過去にも勝る。
そのアメーバとお前を繋ぐ無数の生き物の連続は、
その何億年の線という、途方もない奇跡の連続は、
いいか?
全て、今のお前のためだけにあった、と考えていい」

この言葉は強力なリアリティーをもって僕の心に差し迫ってきた。

更に成長し刑務官になった主人公が死刑囚の山井に言った言葉である。

「人間と、その人間の命は、別のように思うから。
……殺したお前に全部責任はあるけど、
そのお前の命には、責任はないと思ってるから。
お前の命というのは、本当は、お前とは別のものだから。……」

どうだろう。

命について考えた時、僕はこれしかないと思った。

これこそが真理だと思った。

太古から続く生命の連なりの一端に
自分が存在していると考えれば、それだけで生きる意味はある。

己という存在を越えて
「命」そのものに価値があると言って貰えると随分心強く感じた。

(中略)

生きているとフラストレーションの固まりのようなものに
全身を覆われて身動きが取れなくなる時がある。

そんな時に叫びたい衝動に駆られたことはないか。

急に叫んだら変な奴だと思われるから我慢するのだけど、
大声で叫び自分の周囲にある鬱陶しい膜のようなものを
破り裂きたいと思ったことはないか。

あれは何だろうと考えたことがある。

生まれようとしているのかな
と思ったことがある。

人間が叫びたい時、
それは自暴自棄になっているのではなく、
生まれようとしているんじゃないか
と思ったことがある。

そうだったら良いなと思った。

人間の人生最初の咆哮は産声である。

生きていると苦しいことはある。
今後も何もかも憂鬱な夜はやってくるかもしれない。

だが、必ず目覚めよと呼ぶ声が聞こえる朝が
やって来ると信じたい。

この小説は僕にとって特別な作品になった。

中村文則さんの作品が読める限り生きて行こうと思う。

 

 

2015年3月29日(日)

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